「建築・・・その真の姿は人がその中に立った時はじめて理解されるものである」
アルヴァ・アアルト
優れた建築に身を置くと、いままでの自分の世界が変わる感覚を覚えます。見えるものも違ってきて、建築や住宅の見方や考え方が広がり、それはとても気持ちの良い時間です。建築空間に自分が立つことで、雑誌やインターネットの情報、間取り図では決して伝わらない、「空気感」を肌で感じ取ることがなによりの体験となります。
写真集で見ている名作住宅も、実際にその空間に立たないとなかなか分からないものです。私も実物を前に言葉にできない程、身体に染渡るような感動を覚えるような体験を何度もしてきました。建物の中に立ち、座り、自分がその空間のなかに身を置くことは、インターネットや本では学ぶことができない貴重な実体験です。優れた建築の空気に触れ、風や光を全身で浴び、自分の言葉で考えることが大切だと思っています。その上で本や雑誌から学ぶことで、さらに建築への視野や理解が広がるのではないかと考えています。
インターネットで好みの住宅を探し、どんな家が良いのかを調べ、頭で考える(測る)だけにとどまると、多くの情報を前にして、自分が何を求めていたのか、何が良いのかまったく分からなくなってしまったという話を、最近よく建て主の方から耳にします。そんな時は、原寸大のリアルな建築を体験することをお勧めします。現代建築はもちろん、古建築や民家を体感したり、居心地の良さそうなお店に行ったり、ホテルや旅館に泊まってみたり、茶室などの空間体験もお勧めです。良い空間をいくつも体験した建築好きのクライアントになって、ご自分の感性や感覚を磨き、身体化された空間体験を持つことは、これからの住まいづくりをきっと、楽しく実感のあるものにしてくれるでしょう。
そして、なにより建築家とのコミュニケーションも弾み、共通の空間体験が、他の誰でもないあなたの家づくりを強力にバックアップしてくれるはずです。そのプロセスから生まれた住まいは、インターネットの情報や頭の中だけでは決して測り得ない、豊かな住空間になっていることでしょう。
(高野 保光/遊空間設計室)
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