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私の逸品さん。3/工藤夕佳

 子供の頃から鞄が好きです。街中でも道行く人の鞄やショーウインドーの鞄に目がいってしまいます。

 好みの鞄に出会うと、自分で布を縫って作ってみたり…。そんなことを小学生の頃からしていました。形をつくる、ということに興味があって、それがたまたま鞄というジャンルに向かったのでは、と思っています。作ってみるものの、出来上がったらそこで満足してしまい実際に使うのは数回程度、または作っただけで終わり、ということも多いのが現実で、見様見真似で作ってみても、プロがつくるもののようにはいかず、実際に使えるようなものをつくるのは難しいと気づかされるばかりでした。

 ですが、今もたまに猛烈に作りたくなることがあるものの、時間が取れず断念してばかりです。最近はもっぱらネットで鞄屋さんのページを見ることが楽しみです。

私の鞄への興味のルーツ?なのかもしれないお話です。

 事務所を開設後は自宅で仕事をしていましたが、しばらくして仕事場を借りようかと探していた時に、親戚所有のマンションの一室を貸してもらえることになりました。借りるまでは物置状態になっていていた部屋でしたが、片づける前に現状確認に行った時にあるものを見つけました。


 こちらのだいぶ古ぼけたトランク。一目見て、これは!となりました。

 これは、祖父作のトランクでした。祖父は戦前に上京し、修行をして鞄職人になりま

した。大病を患ってから鞄職人は辞めてしまったのですが、それは私が生まれるずっと前のことで、祖父が鞄職人だったという話は聞いてはいましたが、実際に作ったものが残っていることも知りませんでした。既に亡くなっている祖父の作品との対面に驚くとともに、しっかりとした丁寧なつくりの鞄を見て、祖父の思い出が蘇りました。


 私の中での祖父の記憶は、鼻を咬む時ティッシュを丁寧に折り畳んでいる姿、お菓子を丁寧に切り分けてくれる姿、葛湯をゆっくり大事そうにかき混ぜる姿など、何かをしている時の所作ばかりです。

 何事も丁寧に行っている様子はついついじっと見つめてしまうことが多く、記憶にも深く残っているのかもしれません。

 そんな祖父の姿を思い出しながら祖父の作った鞄を見ると納得する思いでした。

このトランクは本体は紙と布でできているもののようで、戦後の革は簡単に手に入らない時代につくられたものかもしれません。表面は古ぼけていますが、作りはしっかりしていて、祖父の実直さを表しているようでした。

 今は私の手元にはないのですが、事務所を開設するタイミングでこのトランクと出会え

たことは、祖父に同じモノづくりに携わった先輩として背中を押してもらったような気持ちになりました。


 祖父は鞄が好きだから鞄職人になった、というわけではないようで、大病をした後は好きなもので商売を、とケーキ屋を経営者として開業しました。ケーキ職人ではありませんでしたが、ケーキは常に試食しながらより美味しいものを、とケーキ職人さんと一緒に探求を続けていたそうです。ケーキ屋も私が中学生になる頃には閉めてしまいましたが、自宅からも近くよく訪ねていたので、閉店するまでは自宅の冷蔵庫にはほぼ毎日ケーキが入っていて、おやつにはケーキという日々を過ごし、ケーキはとても身近なものであり、大好物になりました。ケーキ屋を閉店してしまった後もケーキは好んでよく食べています。


 一時期はパティシエに、と考えたこともありましたが、楽しむ側のままがよいと考え、ケーキの次に興味があった建築の世界に進むことに決め、現在に至ります。

大好物のケーキの話も色々とあるのですが、またの機会に。


工藤 夕佳/mokki設計室一級建築士事務所 )

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