おじいさまに子供の頃見せてもらった入江泰吉さんの大和路の写真集、そこにあった春日大社の1枚の写真がきっかけで奈良をずっと探求してこられた建主様。そもそも奈良ご出身だったご主人と一緒に、いよいよこの夏、拠点を東京から奈良に移されました。敷地は新たに求められましたが、古くからの街並みの一角、奈良らしい歴史を感じる場所にあります。
今回、建主様からの数あるお住まいへのご要望の中の一つに『茶室』がありました。
ご友人も多く、もてなされることを愉しまれる建主様らしいご要望と思いました。
私自身、お住いの中の茶室の設計をさせて頂くのは4軒目です。かしこまらずモダンになってきたとはいえ和室の設計も難しいですが、茶室はさらに気を遣いまた力が入ります。
茶室手前の踏込 四畳半の茶室
お住いの中に設える茶室は『茶室』といっても躙り口から…ではなく、普段は和室として気兼ねなく使え、時にはお茶事で客人をもてなす場にもなり…
そんな日常の暮らしに寄り添いつつ、非日常としての空間にもなる茶室が好まれるようです。設計させて頂いた四畳半の小間は開口部も比較的大きく、素直に明るさがあり障子を開けると庭がよく見えます。
庭への窓
当然ながら茶室内は建主様の拘りが凝縮されたつくりになりました。
床の間は赤松の無垢板、床柱も赤松皮付丸柱を材木店にて選ばれました(私も赤松の床柱は大好きです)。天井は私共から工務店さんにお願いした杉板無垢の竿縁天井です。今ではなかなかつくられなくなりました。 室内の土壁と床の間の土壁は少し仕上げが異なっています。床の間の壁は何年かして鉄分が浮いて自然に変化が起きる荒壁仕上とのこと。
床の間 竜山石の炉
炉は100㎏もある竜山石を削ってつくられました。「石炉」を私は初めて拝見しました。入れる灰も少しずつ手をかけて蓄えていかれるそうです。貴人口の建具は唐紙の襖、ということになりましたがその唐紙は鹿の角の粉が入っているそうで…これはまだ私はお目にかかれておりません(唐紙が間に合わなく…) 。
軸釘、花釘、釜釘などの金物とその位置、水屋の設え・・・本当に茶室は気を使いますが、でも完成し畳に座らせて頂くと日本人であることを嬉しく感じるような気持になります。
奈良の暮らしに馴染まれた建主様にお茶を点てて頂ける日を今から楽しみにしています。
(松本 直子/松本 直子建築設計事務所)
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