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〇〇年前の君へ。1/徳井正樹


[竣工時]                      [築25年]

なるべく若いうちに家を建てねば!

 住宅設計屋で生きていくには、まず自宅建設を実践し、そこでの気づきを建主の現場に生かしていくことが、最もストレートで、説得力も増すはずだ。そう思って35歳で我が家を建てた。あっという間に27年だったが、土地探しからお金の借り方、上棟式の準備や竣工の感慨など、身を以て体験したことは、その後の肥やしとなった。長女の入学式に合わせて引っ越し。しかしその前日、桜の花弁に雪が積もった。よく聞く紺屋の白袴通り、その晩の玄関には、扉の代わりにブルーシートが掛かっていた。


 家は出来たが予算がなく、外構はほとんど手付かずだったが、その何年か後、玄関前のアプローチに誰も植えないか細い一本の木が生え始めた。調べると「エノキ」。公園樹にも選ばれる樹形のいい広葉樹だ。 「これは、ラッキー!」。 玄関前に大きな木陰ができるのを楽しみにしていた。

 5年10年とみるみる背を延ばし、15年ほど経ったろうか、その玄関エノキは、見事に我が家のメインツリーへと成長した。雨樋のない我が家ゆえ落ち葉も心配なく、芽吹く新緑、夏の木陰、真っ黄色の紅葉を楽しんだ。

[竣工時] 

「ここまま見守れば、直径1mにも成長するぞ!」、そう家内に話したら意外な返事が返ってきた。   『それならば、とにかく早く伐ってほしい!』、と。 確かに子供達に樹の管理まで任せるわけにいかない。見ると、その大樹の根っ子は足元の1トンはあろう御影石を10cmも持ち上げていた。

 せっかく成長した大樹。かの思いを振り切りその冬、庭師に頼んで伐採。助手を務めたので断念ながら渦中の写真は撮れなかったが、倒してみるとその体積と重量感に驚くばかり。伐り倒し仕事を終えたプロの背中を見送ると、直径60cmを超える主幹と、腿ぐらいの大量の枝、葉のついたダンプ一杯ほどの小枝が現場に残った。結局、その後始末には半年以上かかったか、、。


[伐採前]

[伐採後]

[伐採後]

 確かにエノキやケヤキは成長が早く、高木になるので家の近くに植えるべきではなかった。ただ、それまで何枚もの外構図を描いて、建主の庭づくりに参画してきたにも関わらず、若い頃の自分には樹形のバランスや紅葉の色などに目を奪われ、その木がどのくらいのスピードで成長していくのか?、そしてその管理は建主ができる範囲なのか?など、木々が人間以上に成長していくという基礎知識が乏しく、「早く緑の中に隠れる家になれば」などと考えていた。  今振り返っても、建主ご家族に大変なご迷惑をかけてきたことを猛省するばかりである。「家と庭は一体がいい、、」などとよく耳にするが、それは庭を庭師などに託せる余裕を持ったひとの話。素人が世話できるのはせいぜい一人6畳程度だという。家の管理以上に時間と体力を要求してくる庭の木々たち。広さ以上に建主の年齢も十分考慮に入れ、草や樹から手入れのお呼びがかかる前に手入れを楽しめる範囲こそ、楽しい庭づくりであると、つくづく思う秋の庭守りである。

徳井 正樹/徳井正樹建築研究室)

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